相続不動産と同時廃止
FAQ(よくある質問)
Q.不動産があっても同時廃止になる?
自己破産の申立をしたところ、裁判所から管財事件にすると言われ、予納金を準備しなければならないという人も多いでしょう。
一応、このような裁判所の判断も争うことはできます。
争ってうまく行ったという裁判例を解説します。
今回の内容は、
- 管財費用が準備できない人
- 相続不動産があって自己破産を考えている人
という人に役立つ内容です。
不動産でも同時廃止の裁判例
申立人が所有する遺産分割未了の僻地にある老朽化した建物を含む不動産に対して、仙台地方裁判所が20万円の予納金を命じました。この決定に対し、申立人が即時抗告を行った結果、仙台高等裁判所は同時廃止が相当であると判断しました。
仙台高等裁判所2024年1月15日決定となります。
極めて例外的な事情ではありますが、自己破産の申立をして管財事件だと言われた場合の対応策の一つではあります。
費用準備できない申立人
仙台地方裁判所の運用により、不動産を所有する場合には通常、破産管財人が選任され、20万円の予納金が求められます。本件の申立人は、相続による僻地の不動産(4分の1の持分)を所有していましたが、その不動産には価値がなく、申立人は高齢で生活困窮していました。
申立人の状況は
- 高齢世帯
- 妻を1年前に亡くし、国民年金で生活
- 生活保護に近い経済状況
というもの。
不動産の無価値
遺産分割未了の僻地にある実家不動産の持分を有していたとのことです。相続割合は4分の1。
不動産の状況は、山林等に加え、宅地上には古い建物が存在。居住者のない状況で長年が経過。
さらに、当該建物は、林道からかなり下ったところにあり、解体した場合の廃材の搬出には困難を伴うという立地条件だったとのことです。
申立人は不動産の価値がないことを証明する査定書を用意し、同時廃止を求めましたが、仙台地方裁判所は20万円の予納金を求める決定を下しました。この決定に対し、申立人は即時抗告を行いました。
破産裁判所からの対応
自己破産を同時廃止前提で申し立てたところ、地方裁判所からは、不動産があるので破産管財事件とする、20万円をいつまでに集められるか、との連絡が来たとのことです。
これに対し、申立人の生活実態を説明し、換価価値のない遺産分割未了の不動産があることの一事をもって20万円もの予納金を準備させることは申立人の生存権を脅かすこととなること、仮に破産管財事件とするとしても、申立人の生活実態に鑑みて、予納金額を数万円とするなどの配慮が必要であることなどを論じた書面を改めて提出したものの、いくら査定書を用意しても予納金は必要不可欠であり、予納金額は20万円を下回ることができない、との回答。
数日後には、20万円の予納を命じる決定が届き、これに対し、即時抗告の申立てをしたという流れです。
仙台高等裁判所の判断
高等裁判所は、申立人の生活状況や不動産の価値を考慮し、次のように判断しました。
不動産の換価価値: 不動産の査定書により、価値がないことを認めました。
生活実態の考慮: 申立人の経済状況を鑑み、破産手続の費用を支弁する能力がないと判断しました。
これにより、高等裁判所は「申立人の経済生活の再生の機会を確保するために、破産管財事件として進行させることは相当ではない」として、同時廃止を相当とする決定を下しました。
このような判断で地裁の予納金納付命令を取り消しています。
申立人の実情を考慮した裁判所の柔軟な対応の一例といえます。
「当裁判所は、抗告人が父母からの相続により有している土地建物の持分各4分の1の不動産には、換価した場合における処分費用を上回る価値、すなわち換価価値があるとは認められず、抗告人の生活状況や資産・負債の状況からしても、管財人の調査を経るまでもなく、破産手続の費用を支弁するのに足る破産財団がないのは明らかであって、破産手続開始決定をすべき現時点において、破産財団をもって破産手続の費用を支弁するのに不足すると認める事ができるものと判断する。
抗告人の破産事件は、破産法216条1項により、破産手続開始の決定と同時に破産手続廃止の決定をしなければならないものであるから、抗告人には、管財事件とした場合の手続費用や郵券の差額の費用を予納すべき義務はない。
よってこれらの費用の予納を命じた原決定は不当であるから取り消す。」
棄却例
管財人の費用を負担するよう命じた破産裁判所の決定に対して、争ったものの、棄却された裁判例もあります。
福岡高等裁判所平成27年2月4日決定では、予納命令が適法とされ、抗告が棄却されています。
- 破産手続の費用予納は適法であり、抗告人は15万円を予納すべき。
- 抗告人の財産状況から、破産管財人を選任しても費用を支弁できる。
- 抗告人の財産状況に関する申告には不備があり、破産管財人による調査が必要。
- 抗告人の免責不許可事由の調査も必要と認められる。
- 抗告人の主張する「同時廃止基準」は法的拘束力がなく、採用できない。
- 予納命令の支払猶予期間についても違法ではない。
棄却した裁判所の判断
高等裁判所は、
破産財団となるべき抗告人の財産として、抗告人の申告により現に判明しているだけでも、保険の解約返戻金見込額合計29万2644円及び預金17万8324円等が存在する。
このような抗告人の財産の状況からすれば、抗告人の破産手続について破産管財人を選任しても、破産財団から破産管財人の報酬その他の破産手続の費用を支弁することは可能というべき
また、一件記録によれば、
①抗告人は、破産手続開始の申立ての際には、保険の解約返戻金見込額はいずれも0円である旨申告していたところ、その後、原審裁判所から2回にわたり保険の解約返戻金に関する資料の提出を求められ、その都度、解約返戻金見込額の申告額を増加させたこと、
②抗告人は、上記申立ての際には、申立ての約4か月前である同年5月23日から同年6月22日までの間の家計表しか提出しておらず、その後、原審裁判所から最新の家計表の提出を求められて初めて、同年9月25日から同年10月24日までの間の家計表を提出し、同家計表には、収入に比して高額と言わざるを得ない教育費(11万7228円)の支出等が記載されていたこと、
③抗告人は、上記申立ての際には、主たる使用口座と解される預金口座につき、同年6月24日までの取引が記帳された通帳の写ししか提出しておらず、その後、原審裁判所から2週間以内に記帳した通帳の写しの提出を求められると、同年9月30日から同年10月21日までの取引の記帳部分のみを提出し、更に原審裁判所から欠落部分の通帳の写しの提出を求められて初めて、同年6月25日から同年9月29日までの取引の記帳部分を提出したものであり、同部分には、その間における預金残高の45万円程度までの増加や、使途につき説明を要する不定期かつ高額な引き出しが記録されていたこと等の事情が認められ、このような抗告人の申告の経緯からすれば、破産手続開始の申立人である抗告人自身による申告によってその財産の状況が正確に明らかにされているかどうかについて、なお疑義が残るものと言わざるを得ない。
さらに、抗告人は、自身の名義で借入れをして購入したとする自動車(トヨタアリスト及び日産エルグランド)並びに自身を契約者とする自動車保険(平成26年1月解約)の対象とされていた自動車(BMW)につき、元夫の使用車両であること等を理由に、現状は不明である旨申告していることからすれば、抗告人の自動車の所有に係る事実関係について、調査の必要性が認められると指摘。
以上のことからすれば、抗告人の破産手続については、破産管財人により抗告人の財産の状況を調査する必要性があるものと認められるとしています。
免責不許可事由への該当性の有無や裁量による免責許可の当否が問題となり得るというべきであるから、破産管財人により免責の許否に関する調査をする必要性もあるものと認められるとしています。
同時廃止基準について
抗告人は、福岡地方裁判所第4民事部破産係が作成・公表している平成17年1月1日付け「同時廃止基準について」によれば、抗告人の破産手続は同時廃止決定がされるべき場合に該当するから、これを管財事件とすることを前提に予納すべき金額を定めた原決定は違法である旨主張。
しかし、上記「同時廃止基準について」は、そもそも、個別事案における裁判所の判断を法的に拘束する性質の基準とは解されないし、その文言上も、債務者の財産の総額が50万円に満たないなどの所定の事由に該当する場合に「同時廃止とすることができるものとする」旨定めたものであって、一定の場合に同時廃止決定をすべきことを定めたものとはいえないから、抗告人の上記主張はその前提において採用することができないとして排斥しています。
同時廃止→管財事件の指示
同時廃止と管財手続きについては、以下のリンクで解説しています。
最初から管財手続で申し立てをする場合には、管財手続きで進められます。
これに対し、同時廃止で申し立てをした場合でも、裁判所の判断で管財手続きで進めると指示されることも多いです。この場合には、管財予納金を準備しないと破産手続きは進められません。
神奈川県の場合には、4ヶ月程度であれば分割で支払うことを待ってもらえ、その後に破産管財人選任となります。
ここで管財予納金を準備できない場合が問題です。
免責不許可事由があったり、2回めの自己破産等の問題が出てきそうな事案の場合には、管財手続きにされる可能性はあります。そのような説明を事前にはしますが、管財手続きにされた場合には、予納金の準備が必要なのです。
2024年時点の神奈川県の運用では20万円です。また、通常は官報費用も増えるので、実費が加算されます。
2つの裁判例の違い
そのような管財手続きにするという裁判所の判断を争った場合の手続きが今回のような裁判例となります。
結局、管財事件とされた裁判例では、ある程度の資力もあり、申立後の経緯からしても、管財手続きは仕方がないだろうと感じる事案です。
これに対し、今回の同時廃止とされた事案では、予納金の準備のしようがない事案だったように見えます。一応、不動産を持っている場合には、管財手続きにするというルールの裁判所が多いでしょう。しかし、実態として、生活保護に近い状況では、20万円の準備はできず、だからといって申立を認めないとなると、債務者の救済は難しく、自己破産の制度趣旨にも反する結果となってしまいそうです。
だからといって、最初の事例で、申立人の意見のように予納金を数万とすると、対応してくれる破産管財人を探すのが大変でしょう。
生活保護に近いという話が出されていますが、むしろ生活保護受給者の場合には、法テラス利用により管財予納金も法テラスから支出され手続きが進められます。
免責調査型の事案では裁判所の判断も仕方がないと感じることも多いですが、今回のような相続不動産の持ち分があり、無価値という事案では、同時廃止を狙うこと、また、予納命令に対して、高等裁判所まで争うという選択肢があることは頭に入れておいても良いのかもしれません。
債務者の救済方法
ただ、仮に、このような事件を担当した場合、高裁までチャレンジできるかというと微妙だと感じました。
しかし、そのまま自己破産の申立をすれば、客観的に不動産があるので、神奈川県でも管財事件にされる可能性が高いといえるでしょう。
自分なら、上記のように生活保護に切り替えられるなら法テラス利用で対応。
もし、切り替えもできず、相続放棄もできない状況なら、自分なら自己破産申立前に遺産分割や相続分の譲渡を検討するかもしれません。当然ながら、自己破産申立直前の財産処分は、否認されるリスクはあります。ただ、査定書などがあり、無価値のものを、たとえば1万円で譲渡し、登記まで済ませていれば、少なくとも客観的には、不動産を持っていないので、地方裁判所でも、管財事件にしないという判断ができる確率が多少は上がるのではないでしょうか。
もちろん、他の相続人が受け入れてくれることや、登記費用の問題はありますがね。
決定内容を見ると、相当の査定書を提出しているようですので、おそらく、このあたりの努力もしたうえでの申立なのかもしれませんね。
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