相続財産の破産
FAQ(よくある質問)
Q.相続財産の破産手続とは?
自己破産と相続が関係する問題の中で、相続財産の破産手続がされることもあります。
あまり使われていないマニアックな制度ですが、解説しておきます。
今回の内容は、
- 自己破産手続中に家族が亡くなった
- 相続財産破産について押さえておきたい
という人に役立つ内容です。
自己破産と任意整理の違い
破産法では、相続関係の破産手続として、相続人個人の破産以外に、相続財産の破産を認めています。
相続財産独自に破産手続きを認めているものです。
相続財産は、個人でも法人でもありませんが、破産能力を認められていることになります。
相続財産破産の件数
しかし、この相続財産破産手続が使われることは少なく、東京地裁ですら年間10件前後と言われています。
ほとんど使われていない手続ですね。
相続財産破産を申し立てられる人
この相続財産破産手続を申し立てられるのは、相続債権者、受遣者、相続人、相続財産の管理人又は相続財産の管理に必要な行為をする権利を有する遺言執行者とされています。
申立人については、破産法224条1項に書かれています。
相続放棄と相続財産破産
相続人は、単純承認をしてしまうと相続放棄ができなくなります。
この点、相続人という立場で相続財産破産の申立をすることは単純承認になるのではないかと言われることもあります。
しかし、相続人による相続財産破産の申立ては、単純承認事由にはならないとされています。
相続財産の破産を申し立てた後で、相続放棄をすることもできるとされています。
相続財産破産申立の期限
相続財産の破産申立てには期間の制限があります。
破産法225条に書かれています。
以下、説明します。
破産申立後開始決定前の死亡
破産手続きでは、申立があり、その後に裁判所の審査、破産手続開始決定が出されます。
この手続の途中で申立人が死亡した場合に問題になるのです。
破産申立後、開始決定が出される前に債務者が死亡した場合、裁判所は、相続財産について破産手続を続行する旨の決定ができます。これには、相続債権者や相続人などによる申立てが必要です。
この申立ては、相続開始から1ヶ月以内にする必要があります。
続行の申立てがない場合には、1ヶ月の期間経過時に破産手続は終了となります。
破産手続開始決定後の破産者の死亡
これに対し、破産手続開始決定後に破産者が死亡した場合、相続財産について破産手続が続行されます。
最初の破産決定により、破産財団や破産債権は決まっているので、当然に続行されるものです。
免責手続は続けられない
相続財産の破産では、相続人個人ではなく、相続財産が破産者という扱いです。
個人ではないため、相続人が免責の許可申立てをすることはできません。
すでに免責を申し立てた後に、債務者が死亡したとしても、相続人は免責手続を受継できないとされています。
したがって、債務者の死亡により免責手続は当然に終了してしまうのです。
結局、相続放棄が必要になる
相続財産の破産があっても、結局、免責は認められていません。
そのため、破産手続後も、破産債権は、相続債務として残ってしまいます。
この支払を避けたいと相続人が考えるのであれば、相続放棄や限定承認の手続をする必要があります。
結局、相続放棄の手続をしなければならないのであれば、相続人としては、速やかに相続放棄の手続をして、被相続人の破産手続きには関与しないという対応をとることの方が多くなります。
あえて相続財産の破産手続きに積極的に関与するメリットは乏しいといえるでしょう。
相続財産破産と限定承認
相続財産破産では、相続財産から相続債権者は配当を受けられることになります。
これだけ聞くと、限定承認と似ているように感じます。
限定承認は、相続人全員の申立によって、相続財産に限定して責任を認める制度です。
昔の破産法では、限定承認や財産分離がされた際に、相続財産が債務超過の状態だと発見されたら、相続人は相続財産破産申立てをしなければならないと、義務だとされていました。
さらに、相続財産破産の手続が終結するまで限定承認の手続は中止されていました。
相続財産の破産の方が優先的に進められていたのです。
しかし、実際には、相続財産が債務超過状態でも、相続人が破産申立てをすることはほとんどありませんでした。
申立が義務とされていることに疑問の声も多くありました。
そこで、破産申立義務はなくなったという経緯です。
相続財産破産の手続
相続財産破産の手続では、相続財産と、相続人固有の財産を区別します。
相続財産のみが清算の対象とされ、相続人自身の財産は処分されません。
相続財産破産の対象となる財産は、破産手続開始時における相続財産です。
相続開始から破産手続開始決定までの間に、相続人が相続財産を処分してしまうと、反対給付について相続人が有する権利が破産財団に帰属するとされます。売却したら、売却代金は、破産財団に帰属するので、破産管財人が回収する権限を持つということです。
さらに、相続人が反対給付を受領してしまった場合には、原則として破産管財人に引き渡さなければならないとされています。受け取った売買代金などは、破産管財人に引き継ぐ必要があるのです。
ただ、例外として、相続人が反対給付を受領した時点で、破産手続開始の原因となる事実または破産手続開始の申立てがあったことを知らなかったときは、現存利益を返還するだけで良いとされまています。現存利益の返還は、他の箇所でもよく出てくる表現です。
相続財産破産と混同
相続の法律問題では、混同という言葉が使われます。
債権者と債務者が同一人物に帰属するようになった場合に消滅する制度です。
お金を返せという人と、お金を返せなければならない人の権利義務が同一人物になったら、残す意味がないからです。
しかし、相続財産破産では、例外として、この混同は起きません。
相続財産単位で、相続人の資産等とは分けて清算する趣旨の制度です。それなのに、混同が起きてしまうと、破産制度の相殺禁止と同じように不公平になってしまうからです。
亡くなった被相続人が、相続人に対して持っていた債権は、破産財団に帰属します。
逆に、相続人が被相続人に対して持っていた債権は、他の相続債権者と同じく破産債権になります。
混同等で優先的に回収できるものではなくなっています。
相続人の破産
相続財産破産と並行して、相続人の破産が進むこともあります。
相続開始後、相続人に破産手続が開始された場合に、破産者となった相続人が相続について、単純承認をするのか、限定承認や相続放棄をするのか問題になります。
単純承認となり、相続財産もマイナスの場合には、トータルとしてマイナスの借金が増えてしまうことになります。
そうすると、相続人の破産手続で、配当があっても、受け取れる配当金が減ってしまいます。
逆に、相続財産がプラスだった場合には、相続人が相続放棄をすると、破産債権者としては、相続財産からの配当は受けられないことになります。
債権者への影響は大きいのですが、相続をするのか相続放棄等をするのかは、相続人自身の権利とされます。
特に、破産手続開始前に相続や相続放棄がされた場合には、破産債権者がこれに異議を出すことはできません。
次に、破産手続開始前に相続が発生、相続放棄をしないで破産手続開始決定が出た場合、破産手続開始後に破産者が相続や相続放棄をできるかが問題になります。
破産法では、相続人が単純承認をしたり、相続放棄をした場合でも、限定承認扱いになるとしています。
破産法238条1項です。
限定承認の場合には、破産管財人は、相続財産を分別管理します。
相続債権者については相続財産から、相続人固有の債権者については固有財産から配当します。
2つの破産財団・債権者を区別して取り扱う趣旨です。
限定承認と同じ効果なので、相続財産について、相続債権者に配当した後に、残余財産がある場合、その相続人に帰属する金額は、相続人固有とされます。
相続人固有の破産手続で、破産財団になります。
なお、この手続の例外として、相続放棄に関しては、破産管財人が承認(相続放棄を認める)ことができます。
明らかにマイナスで手間がかかるという場合には、相続放棄を認めてしまう扱いです。ただ、破産管財人の承認は、裁判所の許可が必要とされています。
相続財産破産での債権者の立場
相続財産破産と相続人の破産手続が進む場合、被相続人の債権者は、債権全額について破産手続に参加できるのが原則です。
ただし、破産手続開始前に相続人が相続放棄をしていた場合には、相続人固有の財産とは切り離されるため、相続人の破産手続には参加できなくなります。
相続財産からの配当のみ受けられる関係になります。
また、相続人固有の破産と相続財産破産が競合した場合には、相続人債権者は、相続人の破産財団について相続債権者に優先します。
相続人の債権者は、もともと相続人の財産から回収できると考えていたはずなので、被相続人の債権者よりも優先するという趣旨です。
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