税金の差押
FAQ(よくある質問)
Q.税金滞納で何が差し押さえられますか?
滞納税金がある場合、自己破産をしても免責の対象になりません。
税金自体の支払義務は自己破産をしても残ってしまいます。
ただ、他の借金がある場合には、そちらの支払い義務をなくすことで、滞納税金の支払を進めやすくなります。また、自己破産をしたことで、一部の税金については延滞金の減免が認められることもあります。
では、滞納税金がある場合、どのような財産が差し押さえられてしまうのでしょうか。
法律で差し押さえが禁止されている財産以外は差し押さえがされるものと覚悟しておくべきでしょう。
預金、給料、保険などは差し押さえされやすい財産です。
滞納税金の差し押さえについては、
『自治体債権の滞納処分の停止・債権放棄の実務』という本が詳しいです。
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基本的には自治体職員向けの本ですが、税金の差し押さえの対象、禁止財産、禁止行為、債権放棄の根拠などが詳しく書かれています。
滞納税金等で差し押さえされた側でも、交渉する際に、このような知識を押さえておくと有効でしょう。
債権放棄とされていますが、納税者側から求められる権利はなく、自治体側から職権で放棄してもらうしかない制度です。
滞納処分とは
滞納処分というのは基本的に差し押さえと同じような言葉として使われます制が、厳密には、税金に関する強制的な手続きを含むもので、
差し押さえ・換価処分、配当までを含んだ言葉です。
税金の差し押さえ禁止財産
税金でも差し押さえが禁止されている財産はあります。
税金以外の一般債権では、民事執行法で差し押さえ手続きが予定されています。
ここでも差し押さえ禁止財産はあります。
ただ、税金と、民事執行法での差し押さえ禁止財産は違っています。
通常の債権で差し押さえをするには、裁判所の判決や公正証書など債務名義が必要ですが、
税金ではこれが不要です。
民事執行法では差し押さえが禁止されている財産でも、滞納税金なら差し押さえができるという財産もあります。
そこを押さえておかないと、大丈夫だろうと安心していたら、いきなり差し押さえされた、と慌てることになります。
差し押さえ禁止の動産
まず、差し押さえ禁止財産のうち、動産類。
生活に欠くことができない衣服、家具とかは、差し押さえが禁止されています。
テレビ1台、洗濯機1台など。
滞納者の所有でない動産は差し押さえができません。
3か月分の食料や燃料。
当面の生活に必要なものだからですね。
民事執行法では、一定額の現金が差し押さえ禁止になっているのですが、税金の場合には、そのように現金保有を認める直接的な規定がありません。
この3か月分の食料の規定を使って、一定額の現金の保有を認めるべきなのではないかという議論もあります。
自営業で、業務に欠くことができない機具。
差し押さえにより自営業収入がなくなってしまうと生活できないので。
例えば、クリーニング店の脱水機、飲食店の冷蔵庫などです。
滞納者と生計を同一にする人の学習につかう書籍や道具なども差し押さえをしていけないとされています。
教育関係ですね。
例えば大学生のパソコンとかもこの器具に当たるのではないかとされています。
滞納税金による給料の差し押さえ
差し押さえされることが多い給料ですが、一定額は差し押さえ禁止とされます。
この範囲が、民事執行法の普通の債権の差し押さえ手続きとは全く違っています。
民事執行法だと月収44万円までのの場合、1/4のみが差し押さえ可能です。
3/4は差し押さえ禁止となります(養育費等は禁止範囲が変わります)。
この話が有名で、差し押さえられると給料の4分の1が持っていかれると言われます。
これに対し、税金の差し押さえの場合、禁止範囲の計算方式がそもそも違っています。
一定の金額までは、最低生活費ということで、全面的に禁止されています。
収入が少ない人は、税金の差し押さえだと、全額禁止されているのに、民事執行法だと4分の1は持っていかれるというケースがあります。
税金の場合、最低生活費が保障されています。
最低生活費とは、何かというと、まず本人について10万円が認定されます。
さらに家族構成によって加算されます。
家族というのは生計を同一にしている家族のことです。
一人について、4万5000円が加算されます。
最低生活費として10万円+(生計同一親族×45000円)が差し押さえ禁止になります。
本人がいて妻・子供1人というが生計同一という場合には生計同一親族が2人。
10万円に4万9000円×2人分の9万円が加算されます。
19万円がまず差し押さえ禁止になります。
手取り収入が19万円を下回るなら差し押さえできないという結論になります。
この生計が同一の親族は、所得税法の扶養とは違っています。
収入があっても生計同一親族になります。
差し押さえをする役所等からすると、生計同一親族は少ない方がよいので、生計同一親族について少ない人数で確認書を求めてくることもあります。
実態と違う場合には、そのような書面に署名しないようにしましょう。
最低生活費以外に、地位・体面維持費も差し押さえ禁止となっています。
最低生活費さえ差し押さえなければ、納税者の生活ができるかというと、それ以外にも体面を維持する等の費用がかかるということで、一定額が禁止されます。
具体的には、(手取り給料ー最低生活費)の20%です。
ただし、最低生活費の2倍が上限とされます。
先ほどの、19万円が差し押さえ禁止というケースで、たとえば、手取り給料が20万円の場合、
(20万円-19万円)× 20%で2000円となります。
合計で19万2000円が差押え禁止となります。
8000円が差押えられることになります。
手取り額から、最低生活費、地位・体面維持費の差し押さえ禁止部分を除いた金額を差し押さえされることになります。
滞納税金によるボーナスの差し押さえ
次に、給料以外にボーナスがあった場合。
ボーナスはその月の給料と合算して差し押さえ禁止額を計算することになります。
ボーナスを含めたその月の収入で、先ほどの最低生活費や体面維持費を禁止し、それ以上の部分を差し押さえるという計算です。
滞納税金による退職金の差押え
退職金に関しても同じように最低生活費の考え方が採用されています。
手取り額から最低生活費を差し引きますが、退職金の場合、給料の際に算出した最低生活費の3倍相当額が差押え禁止となります。
10万円+(生計同一親族×45000円)の3倍です。
さきほどの妻子がいるという世帯では、19万円×3の57万円が差押え禁止となります。
次に、20%の体面維持費の部分は、5年を超えた勤続年数の場合に発生します。
5年を超えた勤務だった場合、1年についてこの最低生活費の3倍の20%が加算されていきます。
(勤続年数-5)×(最低生活費×3)×20%
です。
これが差押え禁止になります。
滞納税金による年金等の差し押さえ
民事執行法だと年金関係に関しては差押えが禁止されているものが多いのですが、税金の差押えでは、給料や退職金と同じように扱われることが多いです。
たとえば、確定拠出年金は、民事執行法では差押えができないことになりますが、税金の差押えでは給料とみなされます。
中退共と呼ばれる中小企業退職金共済も、民事執行法では差押えが禁止されていますが、税金の差押えでは退職手当とみなされます。
これらの差押え禁止財産は、自己破産でも処分対象になりませんが、税金では一定範囲で差し押さえができることになります。
滞納税金による児童手当等の差し押さえ
ただ、児童手当等、一定の目的のもとで決められた給付金は税金でも差押え禁止となっています。
出産育児一時金、失業給付なども差押え禁止です。
差し押さえ禁止財産と預金
このように差押えが禁止されているものが、預金口座に入った後に、預金を差押えられるということが多いです。
まず、原則として預金口座に入ると、別財産になります。
差押えができるのが原則です。
ただ、差押え禁止財産を差し押さえることを意図して預金を差押えたと認める特段の事情がある場合には違法になりえます。
脱法的な差押えです。
この点については裁判例も分かれています。
広島高裁松江支部平成25年11月27日判決
児童手当が口座に入金された9分後に差押え→違法と判断。
東京地裁平成28年9月23日判決
年金が入った当日に預金全額を差押え→違法ではないと判断
滞納処分の停止
滞納税金を放棄してもらう権利は納税者側にはありませんが、行政側で、滞納処分の停止をすることはできます。
回収ができないような場合に、滞納処分を停止する方法です。
滞納処分停止をしてと3年間、停止処分の取り消しがされないと納税義務がなくなります。
このような滞納処分の停止は、どのような場合にできるのかというと
3パターンあります。
1 無財産
2 生活窮迫のおそれ
3 所在・財産不明
自己破産をしただけでは滞納税金の義務はなくなりませんが、自己破産をしたことが、1,2の判断要素にはなってきます。
滞納税金以外に借金があり、支払が大変な方は一度ご相談ください。