自己破産記録の閲覧
FAQ(よくある質問)
Q.賃借人の自己破産の場合の賃貸借契約は?
法人や事業者が破産手続きを開始した場合でも、賃貸借契約は自動的に終了しません。
破産手続きが始まった時点で賃貸借契約がまだ続いている場合、破産管財人は、契約を解除するか、破産者の債務を履行するかを選択できます(破産法53条1項)。
今回の内容は、
- 自己破産をした賃借人や破産管財人
- 事業物件の賃貸人
という人に役立つ内容です。
賃借人の自己破産と賃貸借契約
賃借人が破産した場合、破産法第53条に従って処理されます。
以前、民法第621条で賃貸人の解約権が認められていましたが、法改正により削除されました。
破産管財人は、賃貸借契約について、契約解除または履行を選択します。
債務履行を選択した場合、賃料債権は財団債権となります(第148条1項7号)。
なお、賃貸人側が破産した場合でも第53条が適用されそうですが、破産管財人からの解除を認めると賃借人の立場が不当に損なわれますので、否定されています。
事業用物件の明渡
破産管財人による賃貸借契約の処理が問題になるのは、破産者(破産会社)が、事業用物件を借りている場合です。
法人や個人事業者がオフィスや工場として事業用建物を借りている場合の話です。
事業用賃借物件の明渡しについては、申立時に明渡しが完了しているか確認します。
明渡しがまだ完了していない場合、破産管財人が物件を明け渡す必要があります。
その際、明渡しにかかる費用や破産手続開始後の明渡しまでの賃料や賃料相当の損害金は財団債権となります。
破産管財人によるチェックポイント
破産管財人は、このような賃貸借契約や明渡作業がある場合、チェックする必要があります。
通常は、裁判所からの破産管財人就任打診時に、明渡作業があるかどうかなどが開示されています。
検討にあたっては、賃貸借契約書を確認し、契約内容、月額賃料・共益費、未払い賃料額、解約予告期間、敷金や保証金額、敷引額、違約条項などをチェックします。また、そもそも契約が継続しているのか、どちらからか解除がされていないかを確認する必要もあります。
法人の破産申立の際には、相当の予納金があるか、または明渡費用の見積などがつけられており、少なくとも明渡作業ができるだけの費用は確保されている事件が多いです。
破産管財人が、賃借物件を明渡す際には、必要な資料を廃棄しないよう注意します。また、リース物件の引き上げなどがあれば、それを先行させます。
破産管財人による賃貸借契約解除
事業者の事業用賃借物件については、破産法第53条1項に基づいて解除を選択し、賃借物件を明け渡すのが原則です。。この解除権は、法定解除権とされています。
敷金・保証金返還請求権があれば回収を図り、不足する場合は、何を優先するか判断します。
なお、事業継続する場合などは、履行を選択することもあります。また、土地のみ賃借しており、建物を所有しているような事例では、建物売却の見込みがある場合は、土地の賃貸借契約を履行し、建物を売却して財団を増やす方針をとることもあります。
破産法53条による選択
賃借人が破産手続開始決定を受けた場合、破産法第53条の一般原則に従います。
賃貸借契約は、双務契約のため破産法53条が適用されます。
賃貸人が目的物を賃借人に使用収益させる債務と賃借人の賃料を支払う債務が対価関係に立つので、双務契約とされます。
そして、破産手続開始決定の時において、双方未履行の双務契約になるのです。
管財人は、破産法第53条1項に基づいて契約の解除か履行の選択権を有します。
破産管財人が選択しない場合には、賃貸人は、破産管財人に対し、相当の期間を定め、契約の解除または履行を選択するかを催告することができます。
破産管財人がその期間内に確答をしないと、契約の解除をしたものとみなされます(破産法第53条2項)。
賃貸人側として権利関係をはっきりさせたいときにこの催告が使われます。
破産管財人の解除の選択
破産管財人が賃貸借契約の解除を選択した場合、破産管財人は賃借物件を賃貸人に明け渡さなければなりません。
また、賃貸人から敷金や保証金の返還を受けます。
破産管財人の解除によって賃貸人に損害が生じたときには、賃貸人の損害賠償請求権は破産債権となります。
なお、賃貸借契約は管財人の解除権の行使により、即時解除の効力が発生するとされます。
破産手続開始後の賃料債権は財団債権となります(第148条1項8号)。また、その後の目的物の明渡しまでの間の賃料相当損害金も財団債権となります。
破産財団に余裕があるのであれば、賃貸人はこれらを回収できることになります。
破産管財人の履行
破産管財人が賃貸借契約の解除ではなく、履行を選択した場合、破産手続開始後の賃料は財団債権となります(第148条1項7号)。
なお、この場合でも破産手続開始決定前の賃料は破産債権となります。
賃貸借契約の各種費用
破産管財人は、建物を明け渡せば良いと思われるかもしれませんが、実際には様々な注意点があります。
どのように進めるか、何を支払うのかは、以下の点に注意し、敷金・保証金の額も考慮して総合的に判断する必要があります。
ただ、実際には、法的な請求が明確にされることは少なく、和解的な処理で解決することが多いです。
区別しなければならない費用としては次のようなものがあります。
・破産手続開始前の賃料→普通破産債権、債権届により配当
・破産手続開始後返還までの賃料、賃料相当の損害金→財団債権
・賃貸借契約の違約金条項
・明渡費用→財団債権(優先度が高い)
・原状回復費用
・敷引きの取り扱い
まず、破産手続開始前の賃料は、破産債権になります。
敷金返還請求権がある場合、賃貸人は未払い賃料などを相殺できます。この決定前の賃料は、破産管財人が履行を選択した場合でも破産債権です。他の債権者と同じく配当を受けられるだけの立場であり、優先権はありません。賃貸人としては未払賃料額を計算して裁判所に債権届を提出します。
次に、破産手続開始後、明渡までの賃料、賃料相当の損害金は、財団債権です。配当よりも優先度が高くなります。
賃貸借契約上の違約金条項は、破産管財人が破産法に基づき解除をした場合、賃貸人から主張されることがあります。しかし、破産法に基づく解除は法律に基づくもの、法定解除権であり、違約金条項の適用はされないとも解されています。
敷引き特約や違約金、解約予告期間条項については、破産管財人が解除する場合に適用されないとして交渉するべきとされます。
賃料相当損害金の金額を倍にするなどの条項について有効性が争われた裁判例もあります。
明渡費用と原状回復費用
明渡費用は、賃借人の義務のため、破産管財人も財団債権として負担しなければなりません。通常は、破産管財人が明渡業者に見積をとり、支出ができるのであれば発注します。
明渡費用と似たものとして、原状回復費用があります。
原状回復義務が財団債権であるという考え方もあれば、裁判所によっては財団債権ではないとの見解も示されています。なお、破産決定前に賃貸借契約が終了していた場合には、破産債権となります。
問題は、明渡費用と原状回復費用は区別しにくいことです。そのため、和解による解決が多いです。
そもそも通常の使用や経年変化による損耗は、原状回復の範囲に含まれません。
破産管財人による明渡準備
明け渡しまでに実施すべき作業として、リース物件の管理、必要書類の確保があります。
オフィス内の動産、什器備品、資料等を適切に処理する必要があります。また、個人情報や営業秘密を含む書類を廃棄する場合は、適切な処理を行い、証明書を受領すべきです。
これらと明渡作業を並行して進めるために、効率的なスケジュール調整が必要です。
明渡費用が不足する場合、破産財団から廃棄費用を拠出できない場合、賃貸人と交渉して明け渡しを目指すしかないこともあります。放棄して終了とするしかない事例もあります。
賃貸人にどれくらい負担が発生するかは、破産者の財産、破産財団によって変わってくるのです。
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