詐害行為否認の要件、立証責任、対価を得ての処分について解説
FAQ(よくある質問)
Q.詐害行為否認とは?
詐害行為否認は、破産者が債権者を害する行為をすると、破産管財人によりこれが取り消される制度です。
自己破産手続きでは、破産管財人による否認権が認められています。そのうちの一つが詐害行為否認です。
今回の内容は、
- 自己破産準備中、財産処分は問題になる?
- 破産管財人から否認の通知が届いた
という人に役立つ内容です。
自己破産の詐害行為否認とは
詐害行為否認は、破産者による財産減少行為が対象となるものです。自己破産での否認制度は、債権者を害する破産者の行為が否定される制度です。
詐害行為否認は、破産法160条で一般的な要件が決められています。
廉価売却のように、財産を安く処分してしまう行為が典型例です。
破産法160条では、詐害行為について、2つの類型を設けています。
一つは、破産者が、破産債権者を害することを知ってした行為。
もう一つは、破産者が支払停止又は破産手続き開始申し立てがあった後にした破産債権者を害する行為です。
破産債権者を害することを知ったした行為
一つ目の類型では、要件として、
- 破産者が、債権者を害する意思を持って対象行為をしたこと
- 受益者が、対象行為の当時に、破産債権者を害する事実を知っていたこと
があげられています。
行為の時期は問われません。
また、どのような行為が問題なのかについても特定されていません。
詐害行為否認の証明責任
証明責任について、破産管財人が、破産者の詐害意思の証明責任を負っています。
受益者が、自身が破産債権者を害する事実を知らなかったことの証明責任を負っています。
受益者は、善意であることの証明責任は思いますが、過失があったかどうか問題ありません。
受益者まで破産者の財産状態について情報を持っているわけではないので過失があっても問題されないわけです。
破産者の詐害意思
破産者の詐害意思の内容については、どの程度の認識があれば良いのか争いがありました。
かつては、積極的な詐害意思を要求する考え方もありましたが、現在の判例では、債権者に対する詐害の認識さえあれば足りるとされています。認識説と呼ばれるものです。
支払停止後などの詐害行為否認
詐害行為否認の2つめの類型です。破産者が支払停止又は破産手続き開始申し立てがあった後にした破産債権者を害する行為は、160条1項2号の場合です。
時期的な要件が問題とされています。
この2号の場合は、要件として、
- 破産者が支払停止又は破産手続開始の申し立てがあった後に破産債権者を害する行為をしたこと
- 受益者が、行為の当時に、支払停止があったこと及び破産債権者を害する事実を知っていたこと
とされています。
支払停止か、破産申立後の行為が問題とされています。
時期的に問題となるので、詐害意思までが要件とされていないものです。
支払停止により、債務者の財産状況が悪化したことが客観的になっている以上、主観的認識は問題にされないというものです。
ただし、166条により、破産手続開始の申し立てから1年以上前にした対象行為については、支払停止後の行為であることまたは支払停止の事実を知っていたことを理由として否認することができないとされています。
この場合は、破産手続との関連性が薄くなるということで否認対象から外され、受益者の保護をしているものです。
代物弁済の詐害行為否認
債務額を超過する価値を有する目的物を使っての代物弁済が否認の対象とされてます。
破産法160条2項です。
代物弁済は、債務の返済の際に、お金ではなく物で代わりに支払う方法です。
返済ではありますが、債務の額よりも過大な財産を渡してしまうと、総財産は減少してしまいます。そのため、偏頗行為否認とは別に否認の対象としています。
この場合、その価値を超過する部分に限って、詐害行為とされるので、そこの部分について詐害行為否認が認められます。
相当な対価を得ての処分
廉価売却などで相場よりも相当低い金額での売却は否認権行使の対象となります。
しかし、さらに、相当な対価をもらっての売却であっても、金銭化することによって、簡単に使われてしまうリスクがあります。
そのためこちらも否認対象とされています。
破産法161条です。
相当な対価の支払いがあるため、原則の160条での否認権行使よりも、厳しい要件とされています。
具体的には、
- 不動産の売却など財産の種類の変更により、
- 破産者において隠匿、無償の供与、その他の破産債権者を害する処分をする恐れを現に生じさせるものであること
- 破産者が対価として取得した金銭その他の財産について隠匿等の処分をする意思を有していたこと
- 相手方が、対象行為の当時に、破産者が隠匿等の処分をする意思を有していたことを知っていたこと
が要件とされます。
不動産以外に、大型動産、機械類などの金銭への換価も含まれてきます。
非金銭債権としては、知的財産権等もあります。
不動産だけなら隠しにくいのに、現預金に換えられてしまうと隠しやすいため、このような規制があるのです。
これらの要件全てについて、破産管財人が証明責任を負っています。
ただし、否認行為の相手方が、内部者である場合には、事情について知っていることも多いので、悪意が推定される扱いになっています。
財産処分しての給料の支払
また、財産処分の対価について、有用の資にあてる場合には、否認対象行為に含まれないとされます。
例えば、給料の支払い等にあてるようなケースです。
このような使い道であれば、隠匿処分の意思ではないとされています。
実際の否認権行使が問題になる場面では、この使途については、財産等を処分する意思と債務弁済の意思の両方が含まれていると認定されることもあります。一部は給料支払に、そのほかは隠したいという意思の場合です。
このような場合には、いずれが主たる意思だったかを基準として判断することになるとされます。
また、このような隠匿等の処分意思があるかどうかについては、内面の問題ではありますが、実際のその使途がどうだったかという客観的な情報から遡って判断することもありえます。
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