無償行為否認の要件、制度、流れを解説
FAQ(よくある質問)
Q.無償行為否認とは?
自己破産手続きでは、無償行為否認という制度があります。
破産者の行為が否認され、なかったことにされる制度です。破産者の行為によって利益を受けた人は、その利益を返すことになるのです。
今回の内容は、
- 自己破産に贈与したことなどが問題視されている。
- 破産管財人から否認の通知が届いた
という人に役立つ内容です。
自己破産の否認とは
破産法では、否認権の制度があります。
大きくは詐害行為否認、偏頗行為否認を基本とした2つの類型となります。
典型的な否認対象行為としては、財産を安く処分してしまったり、贈与してしまう詐害行為、また一部の債権者に対してだけ弁済する偏頗弁済や、受任通知到達後の担保設定や債権譲渡通知等があります。
債権者を害する財産減少と、不公平弁済の2種類に分けられるものです。
無償行為否認
詐害行為否認のなかで、無償行為否認があります。
無償行為否認は、破産法160条3項に書かれています。
「破産者が支払の停止等があった後又はその前六月以内にした無償行為及びこれと同視すべき有償行為は、破産手続開始後、破産財団のために否認することができる。」
無償行為は、贈与だけでなく、これと同視できるような有償行為も含みます。財産を売却したけど、ものすごく安いようなケースですね。
無償行為否認については、否認制度の中でも、最も容易に立証できるものといわれます。
無償行為否認では内面は考慮されない
無償行為否認では、いわゆる、主観的要件である当事者の内面などは考慮されず、客観的要件だけで否認されます。
内面の立証がいらないので、容易に立証できるといわれるのです。
客観的な要件として、時期的な要件があり、破産者が、支払停止等の後または、その前6カ月以内にした無償行為が対象とされているされているものです。
このような時期に、無償行為があると、極めて詐害性が強いことから、当事者の主観的要件が必要とされていないものです。支払ができそうもない、という時期に近いところで贈与などをしているのは、悪質だと言われるわけです。
無償行為を受けた受益者側からしても、無償で利益を得ているので、要件をより緩やかに否認されやすいものにしても公平に反しないとされています。
無償行為否認の要件
無償行為否認の要件としては
- 破産者の行為
- 無償行為またはこれと同視すべき有償行為
- 支払停止等またはその前6ヶ月以内の行為
となっています。
第三者の行為は、無償行為否認の対象にはなりません。
無償行為否認の例
無償行為否認になるのは、贈与や、債務免除、使用貸借の設定、権利の放棄などがあります。
破産者が贈与をすれば、その分、財産が減って、債権者が受けられる配当が減ってしまいます。
また、破産者が持っている権利の支払義務を免除すれば、回収ができなくなり、財産が減るのと同じです。
このように、破産者が利益を受けられず、相手が利益を受ける行為が無償行為として否認対象とされるのです。
支払いの停止とは
無償行為否認では、時期的な問題として、支払停止の前6ヶ月以内というものがあります。
この支払停止がいつなのかがポイントになります。
支払停止については、破産法では、支払不能の旨を外部に表示する債務者の行為をいうと定義されています。
支払停止があると、支払不能だと推定されます。
支払停止の例としては、弁済が続けられない旨の債権者への通知や張り紙などがあります。
弁護士による受任通知も支払い停止に含まれるとされます。
廃業も支払い停止になります。
債権者から逃げるために夜中に什器を搬出していたことをも支払い停止になると裁判例で認定されています。
支払停止には外部への表示が必要
ただし、外部に表示される必要があるので、弁護士と打ち合わせして自己破産しようと決めただけでは支払い停止にはなりません。
また、支払いを止めたとしても、何らかの理由がある場合には、支払不能だと外部に表示したことにはなりません。
例えば、内容を争っていて支払いを止めた場合には、支払不能の表示ではないので、支払停止には当たりません。
過去には、手元の不渡りが支払い停止になるかどうかが問題になることが多かったです。
最近では、事業再生ADR等私的整理による支払い猶予の申し入れが支払停止になるかどうか問題になっています。
裁判例は判断が分かれています。
合理性がある債権計画が示されたのであれば、債務を弁済できない旨の表示にはならないとして支払い停止にはならないとする裁判例もあります。
親族への贈与は無償行為否認
親族への贈与等については、無償行為否認が問題になります。
オーバーローン物件であっても、無償行為否認には該当します。
オーバーローンなので、一般債権者の利益は害さないはずという主張は通りません。
生命保険等の保険契約者の名義を、親族に変えるようなことも、保険契約上の地位を贈与した者となるので、無償行為否認の対象になります。
離婚の財産分与と無償行為否認
自己破産の申立て前に、離婚に伴う財産分与をしているケースもあります。
これが無償行為否認になるかどうか争われることもあります。
しかし、通常、2分の1相当分の財産分与であれば、相当性があるとされ、無償行為としての否認対象にはなりにくいです。
不相当に過大な財産分与をしているような場合には、財産分与に仮装した財産減少行為とされ、詐害行為否認の破産法160条1項の要件に該当するかどうかが問題になります。
この場合、過大の部分が否認対象となってきます。
なお、相続放棄については否認対象にならないとされています。
詐害行為否認
破産者が、債権者を害することを知ってした行為については、詐害行為否認となります。
これについては、利益を受けたものが、その行為の当時、破産債権者を害することを知らなかったときには否認が制限されます。
無償行為否認には、支払停止6ヶ月前という時期的な要件があります。
この要件を満たさない場合であっても、原則である詐害行為否認の対象になることはあります。
否認行為に対する管財人の対応
このような否認制度は誰が使うのかというと、破産管財人です。
否認行為があると破産管財人が判断する場合には、否認権を行使することになります。
通常、破産管財人が否認権を行使する場合には、受益者に対して、否認する旨を通知し、まずは交渉で解決を試みることが多いです。
無償行為否認の場合には、受け取った金銭の給付を返還するよう求めたり、対象物を返すよう求めていくことになります。
無償行為否認の場合、善意の受益者は、現に受けた利益のみを返還することで足りるとされています。
管財人からの通知・交渉段階で解決できない場合には、破産法上の否認の請求や、否認の訴えを起こすことになります。
裁判になった場合には、裁判所で、否認の要件を満たすのかどうかが争われることになります。
自己破産のご相談や破産管財人からの否認の訴えに関する相談は、以下のリンクよりお申し込みください。