自己破産と免責不許可事由
FAQ(よくある質問)
Q.自己破産での免責不許可事由とは?
浪費、ギャンブル、換金などが含まれる免責不許可事由について解説していきます。
今回の内容は、
- 浪費やギャンブルでの借金がある、自己破産できるか知りたい
- 自己破産で許可されない内容を知っておきたい
という人に役立つ内容です。
自己破産における免責不許可事由とは
免責不許可事由とは、この事由があると、破産手続きで免責が不許可になる可能性があるものです。
自己破産の免責とは、借金の支払い義務をなくすものです。
不許可になってしまったのでは、借金の支払い義務が残るという結論になるので、自己破産をする意味がほとんどなくなってしまいます。
ただし、免責不許可事由があるから、必ず免責になるというわけではありません。
免責不許可事由がない場合には、免責を許可するというのが破産法のルールです。
これに対して、免責不許可事由があっても、諸事情を考慮して、裁判官が裁量で免責許可をすることができます。
現在の実務では、大部分の自己破産事件で、免責不許可事由があっても、裁量免責が認められています。
そのため、免責不許可事由がある場合には、この裁量免責を狙って自己破産申し立てすることになります。
免責不許可事由の破産法の条文
免責不許可事由は、破産法252条1項に書かれているものになります。
ここに当てはまるかどうかが問題になるわけです。
免責不許可事由に書かれている内容としては、
- 債権者を害する行為
- 破産手続の義務違反
- 7年以内
に分類されます。
まず、破産者が意図的に破産債権者を害する行為をしたとみなされるものがあります。
不当な財産を減らす行為だったり、不当な債務負担、不当な偏頗行為、浪費・ギャンブル、詐術、証拠隠滅、債権者名簿の虚偽の提出などがこれに当てはまります。
次の、類型として、破産手続き上の義務を怠ったというものがあります。
調査協力義務違反であったり、管財業務の妨害行為、破産手続き上の義務違反などがあります。
最後に、7年以内の免責という類型があります。
大きく分けると、この3種類が、免責不許可事由の類型になります。
不当な破産財団価値減少
債権者を害する目的で、破産財団に属し、または属すべき財産の隠匿や損壊、債権者に不利益の処分その他破産財団の価値を不当に減少させる行為をした事が記載されています(1号)。
財産の価値を減少させる行為となります。
財産を安く処分してしまうという不利益処分がここに含まれますが、ここでは、債権者を害する積極的目的が要求されるとされています。
換金行為、不当な債務負担行為
破産手続きの開始を遅延させる目的で、著しく不利益な条件で債務を負担し、又は信用取引により商品を入れてこれを著しく不利益な条件で処分した事が免責不許可事由とされています(2号)。
いわゆる換金行為がここで問題にされます。
クレジットカードによって買った商品を換金して資金を捻出するなどという行為がここに当てはまることあります。
このような換金行為は、買った金額よりも何パーセントか低い金額で処分するもので、損をする行為です。このような経済的合理性を欠く債務負担となり、公平な清算手続きである破産手続きを遅らせることになってしまいます。
この点から、破産債権者の利益を害する行為とされます。
ただし、この免責不許可事由にあたるには、破産手続開始を遅延させる目的が必要です。
つまり、既に支払いが不能になっている状態、破産の要件を満たすにもかかわらず、破産を先送りするたことで、借り入れや信用取引をおこなったことが必要になってくるのです。
また著しく不利益な条件ということが要件に挙げられています。著しく不利益な条件での債務負担とは、債務の弁済期限や利率、担保等に関して取引社会の実情から見て不合理な程度に債務者にとって不利益なもの行とされます。
経済的合理性に欠けることを意味するわけです。
換金行為の場合には、どの程度安く売ったかという換金率も問題になってくるわけです。
不当な偏頗弁済も免責不許可事由に
特定の債権者に対する債務について、債権者に特別の利益を与える目的または他の債権者を害する目的で、担保の供与又は債務を行為をし、債務者の義務に属せず、またその方法や時期が義務に属しないものが免責不許可事由とされています(3号)。
破産前に、身内にだけ返してしまえ、というような不公平弁済、偏頗弁済です。
このような偏頗弁済は、否認行為の対象として問題にされやすいものです。
否認制度は、破産管財人が選任され、不公平弁済を是正するため、払われたお金を取り戻して、全体への配当に戻すものです。
ただし、否認とは、要件が違います。否認制度での偏頗弁済で必要とされる、支払い不能などの基準等の要件があるわけではありません。
場合によっては、それよりも緩やかな要件で免責不許可事由とされてしまうものです。
免責不許可事由となる偏頗弁済は、非義務行為であることが要件とされています。
債務者が、支払いの義務を負っている場合で、その方法や時期ともが、約束通りに履行される場合には、偏頗行為があっても、債権者間の不平等の問題に過ぎないので免責不許可事由にはならないことになります。この場合は、否認の方の問題だけとなるものです。
浪費、ギャンブル、射幸行為
浪費または賭博その他の射幸行為によって著しく財産を減少させ、または過大な債務を負担したことも免責不許可事由にされています(4号)。
浪費については、その当時の収入や財産等の事情を考慮することで判断されます。
ギャンブルなども非常に多い話です。
ただし、これらの事情については、それが著しく財産を減らしたり、債務を負担したという事情が認められない限り、免責不許可事由には当てはまりません。
その程度問題となります。
射幸行為についても、投機性のある取引自体が問題なのではなく、自分の資力や判断能力を超えた取引を行ってしまって、過大な債務を負担することが免責不許可事由とされています。
金融取引の場合、適合性に関する問題と呼ばれます。
金融商品取引が免責不許可事由になるかどうかは、資力のほかに、破産者の職業や知識なども考慮されるものとされます。
裁判例として、多重リース契約をしたようなケースで免責不許可事由とされています。
詐術による信用取引
破産手続開始の申立てがあった日の1年前の日から破産手続開始の決定があった日までの間に、破産手続開始の原因となる事実があることを知りながら、当該事実がないと信じさせるため、詐術を用いて信用取引により財産を取得したことも免責不許可事由とされています(5号)。
何が詐術になるのかという点は色々と争いがあります。
破産者が不誠実であることから免責不許可事由が設けられている趣旨からすると、客観的に支払い不能にある破産者が、その事実を相手方に告知しないで借り入れをしたというだけでは詐術にならないといわれます。
積極的に虚偽の事実を告知したとか、資産収入が存在するように債権者に誤信させるため積極的行為が行われたという場合に、初めて詐術と認められるとされます。
源泉徴収票など、収入に関する偽造書類等を提出しているとここに当てはまる可能性があります。
帳簿偽造も免責不許可事由
業務及び財産の状況に関する帳簿その他の物件を隠滅したり偽造したり変動したことが免責不許可事由にされています(6号)。
このようなことをされると、破産財団の管理が難しくなるため、免責不許可事由にされています。
偽造などの概念では、いずれも債務者の積極的な意思を前提とします。
ただ単に、「帳簿をつけなければならなかった」とは知らなくて、帳簿等を整備していないような場合には免責不許可事由とはなりません。
帳簿は、商業帳簿に限られません。商業帳簿とは、会計帳簿及び貸借対照表です。
仕訳帳や元帳、売掛帳などの補助簿も含まれます。
商業帳簿以外でも、業務及び財産の状況に関する調査簿は対象に含まれますし、日々の資金の動きを示すものとしての家計簿も帳簿に該当するとされています。
虚偽の債権者名簿提出による免責不許可事由
虚偽の債権者名簿を提出したことも免責不許可事由です(7号)。
債権者名簿には、自己破産の申立時に提出する債権者一覧表も含まれます。通常はこちらでしょう。
うっかり漏らしたなど過失によって債権者一覧表に記載すべき債権者を記載しなかったような場合、その債権者が非免責債権となります。
一部の債権者が非免責債権になるだけではなく、全体が免責不許可事由にまでなるには、債権者の一部が漏れているだけではなくて、破産債権者を害する目的などで、隠したり、架空の債権者名を記載するようなことが挙げられます。
調査協力義務違反や虚偽説明
裁判所が行う調査において説明を拒んだり、また虚偽の説明をすると、免責不許可事由になります(8号)。
自己破産の手続では、裁判所への説明のシーンが多くあります。
申立時の書類のほか、破産審尋と呼ばれる裁判官面接、また、裁判所が選んだ破産管財人の調査もあります。
破産者には、このようなシーンで説明する義務がありますが、これを拒んだり、虚偽説明をされると、自己破産手続が円滑に進まないため、免責不許可事由とされています。
審尋期日等で説明を拒むほか、正当な理由がなく審尋期日に出頭しないことも含むとされます。
虚偽の説明には、故意に虚偽の説明をするほか、当然に説明すべき事項について積極的に説明しないことも含むとされます。
退職金請求権の存在を申告しなかったようなケースで虚偽説明とされています。
管財業務の妨害も免責不許可事由に
不正の手段により、破産管財人等の職務を妨害すると免責不許可事由に当てはまります(9号)。
裁判所から選ばれた破産管財人が、破産手続きを公平中立に行う立場にあります。そのような管財業務を妨害すると、破産手続きは混乱します。
積極的な妨害のみならず、破産財団に属する財産の引き渡しを拒んだりする行為も、ここに当てはまるといわれます。
自己破産手続き上の義務違反行為
破産法上の義務に違反する行為も、免責不許可事由とされます(11号)。
破産法上、破産者にはいろいろな義務があります。
説明義務、重要財産開示義務、免責についての調査協力義務等があります。
このような義務に反してしまうことも、免責不許可事由になります。
7年以内の免責申立
2回目の自己破産などで、過去の免責許可決定の確定から7年以内に免責許可の申し立ての場合、免責不許可事由とされています(10号)。
以前は10年とされていましたが、現在は7年に短縮されています。
また、2回目の自己破産だけではなく、過去に給与所得者等再生での個人再生を使っている場合、再生計画の認可確定の日から7年以内は、自己破産の免責申し立てができないとされています。
このあたりは、多重債務を繰り返してしまい、債権者の利益を害するモラルハザード対策といわれる規定です。
免責不許可事由がある場合の自己破産のポイント
このような免責不許可事由があっても、裁量免責が出されるケースは多いです。
ただし、破産管財人の調査が必要とされ、管財事件になることも少なくありません。
そのあたりの負担は覚悟しておくべきかと思われます。
また、最近では、免責不許可にまでなるケース、裁量免責すら認められないケースは、破産手続きに誠実に対応しないことがほとんどです。虚偽説明、免責審尋への欠席などがあると、不許可リスクが極めて高くなります。
多重債務に至ってしまった経緯に、ギャンブル、浪費などの免責不許可事由があっても、よほどの金額でなければ、誠実に破産手続きに向き合うことで、裁量免責は狙えるといえます。
免責不許可事由と個人再生
免責不許可事由の程度がひどく、裁量免責も出る見込みも少ない場合には、自己破産で解決できないことになります。
浪費やギャンブルでの損失が1000万単位であると、裁判官や、破産管財人によっては裁量免責すら出せないと判断することもあり得ます。
そのような見通しの場合には、自己破産を断念し、個人再生手続きで解決することもあります。
個人再生手続きでは、免責不許可事由があっても、借金の減額を受けられることになりますので、借金を減額してもらい分割払いで払っていくという解決方法です。
このあたりは取り扱いが多い弁護士に聞いて、どの程度の見込みなのか確認して判断するのが良いでしょう。
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