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ケース紹介204 Sさんの事例

40代 /男性 / 会社員

借入の理由:住宅ローン


神奈川県大和市にお住まいの40代男性のケースです。

1社660万円の債務で自己破産の相談でした。

この記事は、

  • 給与の差押えを受けている
  • 退職金がある自己破産を考えている

という人に役立つ内容です。

著者 弁護士石井琢磨

 弁護士石井琢磨
 更新:2022.7.15

 

住宅ローンの自己破産

対象となる借金は、もともとは住宅ローンのみでした。

以前に、りそな銀行で住宅ローンを組み、自宅を購入。

病気の親の援助が必要になり、手元の資金が不足、住宅ローンの支払が滞り始めてしまいます。

保証会社により、住宅ローンが代位弁済

自宅に設定された抵当権が実行され、競売となります。

競売手続により落札代金の配当が行われたものの、1000万円以上の債務が残ってしまいます。

 

保証会社から競売の訴訟提起

競売後、保証会社から求償権請求訴訟の提起を受けます。

内容を争えるものでもなく、高額の債務だったため、和解もできず、支払を命じる判決を受けました。

その後、保証会社から、元本及び申立て時点において発生している遅延損害金について、給与の差押えを受けます。

裁判所の判決があれば、財産を差し押さえることができます。金額が大きい債権で、債務者の職場情報がわかっていれば、給与差押に動くのが通常です。

 

自己破産の相談

その後、弁護士に自己破産の相談。

しかし、当時、車のローンがありました。自己破産手続を進めた場合には自動車ローンの保証人に請求が行くことを知り、依頼しませんでした。その後、自動車ローンについては完済。

給与差押を受け入れた生活を送っていました。


差押えた債権について全額の回収がなされたことから、給与の差押えが終了

完済かと思ったところ、保証会社から遅延損害金として約600万円が残っている旨を知らされました。

給与差押えの時点で存在していた債務は完済したものの、毎月の差押えで払われるまでの元金に対する遅延損害金が別に発生していたものです。そちらは、給与差押えの対象になっていなかったので、まだ残っているという状態でした。

保証会社と残った遅延損害金の支払方法について協議したものの、合意することができず。

完済が難しいことから、自己破産申立てを決意したという流れです。

 

退職金見込額

自己破産では、退職金見込額の8分の1が財産とみなされます。

これは、現在、退職した場合の金額です。将来、定年時にもらえる金額ではなく、いま、辞めたらいくらなのかという計算で算出します。

今回のケースでは、長くお勤めだったこともあり、退職金請求権は、約543万円でした。

8分の1の金額も、約67万円と、20万円を上回るものでした。

 

退職金の計算方法

退職金見込額について、職場から金額がいくらなのか証明書をもらえればベストです。

しかし、職場に申請しにくい人もいるでしょうし、断られる人もいます。

そのような場合、自分で計算をして報告書を出します。退職金規程などの情報があれば、自分たちで計算するのです。もちろん、ジン法律事務所弁護士法人でもフォローします。

 

今回の事例では、退職金規程の写しを取得できたため、計算のうえ報告書にまとめて提出しています。

退職金については、ポイント制が採用されていました。よくある規定です。

退職金は、勤続ポイント、職能資格ポイント等、複数の要素の合計を基に、退職金規程所定の計算式で決まるものと、退職金規程に明記されていました。

ポイント数については、別表に記載がありました。

そこで、各ポイントを自分たちで計算しています。

今回のケースでは、いつから働いているかを示し、勤続年数から勤続ポイントの累計を出しています。

他の、職能資格ポイントなどは、辞令や人事考課表を提出しています。

これらのポイントから、計算式を具体的に記載した報告書を出しています。

 

自己破産と保険

財産として、多少の保険もありました。

年払いの傷害保険については、一時払いで支払いをしており、解約返戻金が発生するものもありました。

このような保険で解約返戻金証明書が取得できない場合、約款等から計算する方法もあります。

計算方法は、ご契約のしおりなどに記載がありました。

1ヶ月が経過したことから、残期間の解約返戻金額を算出しています。

自動車保険で、月払いのような保険は、掛け捨てとなります。

なお、自動車保険の保険証券に、無事故返戻金特約の記載があることもあります。

ご契約のしおりに同特約について「保険契約者がこの保険契約に係るすべての保険料の払込みを完了しており、かつ、保険期間中に保険事故がない場合に、保険期間の満了に際して」とあり、保険期間の満了前には、この返戻金は発生しないものでしたので、その旨の報告をしています。

 

自由財産拡張とは

破産手続きでは、同時廃止と破産管財人が選任される管財手続があります。

一定の財産がある場合には、管財手続になり、破産管財人が選ばれます。

管財手続では、20万円を超える処分が原則の財産でも、自由財産拡張の申立をすることで手元に残せることもあります。

東京や神奈川県の多くの裁判所では、必要性や相当姓を示すことで、トータル99万円までの自由財産拡張が認められやすくなっています。

これが認められるかどうかは、破産管財人や裁判所によって違うので、判断にバラツキはあります。

 

自由財産拡張の理由

今回のケースでも、破産管財人とも面談後、自由財産拡張の申立理由を書面で提出するよう指示がありました。

簡単に認めてもらえるものではないわけです。

 

報告書には、破産者の生活状況として、扶養対象者が多いことを示しています。
破産者は、有職者であるものの、学生である子供3人と専業主婦の妻を扶養している事情を説明し、家計の収支にさほど余裕はないことを示しています。

また、教育費負担増加が見込まれることから、進学費用についてもある程度準備しておく必要がある点を説明しています。

最近は、高校の受験においても、学習塾へ通い始めることが多く、そのような事情を説明し、具体的な費用の説明もしています。

その費用としては、入学金2万円程度、月謝3万円程度、教材費2万円程度、夏季講習と冬季講習約10万円がかかる見込みであることを説明しています。

特に、本件のように、退職金が財産の場合、実際に退職しておらず、手元にある財産ではありません

財産のうち最も大きいものは、退職金であり、破産手続き中に現金化される見込はないものです。

保険の解約返戻金は、通常であれば換価の対象とならない程度の金額でした。自由財産拡張が認められない場合には、この退職金見込額の8分の1相当額を別に準備する必要が出てきます。

それを積み立てるとすると、破産手続きも長引いてしまうのです。そのような事情を説明し、自由財産拡張が相当であることを主張しています。

退職金が、これよりも高額となり、99万円を上回るような場合には、一定の範囲での自由財産拡張の申立という方法も検討すべきでしょう。

 

このような主張を受け、退職金についても自由財産拡張が認められ、特に資金準備はせずに、破産手続きを終了させることができています。


 

偏頗弁済と免責不許可事由

破産管財人から、偏頗弁済が免責不許可事由になる可能性を指摘されたため、意見書を提出しています。

つまり、自宅不動産の競売手続が完了した後、保証会社の差押えを受けつつ、自動車ローンやクレジットカードの返済を行っていた点です。

まず、弁済した債務は、いずれも、約定通りの弁済か、既に弁済期にある債務に対する弁済でした。そのため、これら債務に対する弁済は、「債務者の義務に属せず、又はその方法若しくは時期が債務者の義務に属しないもの」には該当しません。

また、特定の債権者に特別の利益を与える目的もありませんでした。
つまり、破産法第252条1項3号における「特別の利益」とは、他の債権者との公平性を害する偏頗な利益であり、かつ「特別の」と評価されるだけの利益とされています。

破産者は、按分弁済ではないものの、当時負っていた債務全てについて返済を行っています。

このような返済は、返済原資が不足する中でできる限りの返済を行おうとするものであり、一部の債権者を優遇しようとするものではありませんでした。

そのため、破産者の弁済は、他の債権者を害する偏頗なものといえないか、いえたとしても「特別の」と評価できるものではありませんでした。また、破産者には、債権者を害する目的もありませんでした。

このような点から、免責不許可事由の偏頗弁済にもならないと主張しています。

 

破産管財人による免責不許可事由の意見

このような主張を受け、破産管財人も免責不許可事由にはならないとの意見書を裁判所に出しました。

つまり、債権者を害する目的で行う破産財団の価値の不当な減少行為(破産法252条1項1号)に該当しないことを記載しています。

支払不能時期以降であったとしても、車の購入代金・カード返済は、債権者の破産手続における満足を積極的に低下させようとする害意がないとし、「債権者を害する目的」はなかったと認めています。

 

非義務行為についての偏頗行為に該当しない点にも触れています。

債務者の義務に属しないか、又はその方法若しくは時期が債務者の義務に属しない行為にはあたらないこと、債権者に特別な利益を与える目的及び他の債権者を害する目的(債権者に破産手続における満足を積極的に低下させようとする害意)が存しないことを認定し、「非義務行為についての偏頗行為」には該当しないととの意見です。

 

このような意見を受け、裁判所も免責許可の判断をしています。

 


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